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金属材料基礎講座-204

状態図から見る偏析

 合金を液相から冷却すると状態図に従って凝固し、金属組織を形成します。状態図とは平衡状態を表します。これは各温度、各組成で原子が拡散するのに十分な時間がある時に、状態図通りの温度や組成になることです。しかし、実際の凝固は平衡状態よりも早く行われるため、偏析が起こり状態図からのずれが生じます。液相から固相の凝固を平衡凝固と実際の凝固の比較を図1に示します。

 温度1から凝固が始まります。この時の固相の組成はどちらもaです。そして温度2になると、平衡凝固では固相の中で原子の拡散が起こり、固相全体の組成がbとなります。しかし、実際の凝固では原子の拡散が十分に行われないため、温度1で出来た組成aの固相がそのまま残り、その周りにaよりもB元素が多いbが凝固します。そして固相の平均組成はb’となり状態図からずれます。以下同様に凝固が進行し、平衡凝固は温度3で完了しますが、実際の凝固では温度4にて凝固が完了します。実際の凝固では図1のように固相中の組成が異なる偏析という現象が起きます。そして状態図としては固相線がより低濃度側にシフトします。

 偏析による状態図のシフトの例を図2に示します。Al-Cuのような共晶型状態図の共晶線付近の組成sの合金を凝固する時を考えます。平衡凝固であれば、共晶反応は起こらずα固溶体となり、その後溶解度線に従ってβの析出がおこり凝固が完了します。しかし、実際の凝固では偏析や状態図のシフトがおこるため、(2)の青線に状態図がシフトするため共晶反応が起こります。これはAl-Cu系の他にマグネシウム合金のAZ91系などにもみられる現象です。

 

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