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タイタニック号は低温脆性で沈没した

 タイタニック号は1914年4月14日に処女航海中に氷山に衝突してわずか2時間20分後に沈没しました。この時、2,200人以上をのせていて、死者は1,500人以上にものぼり、当時の最大の海難事故となりました。これは溺れたというよりも低体温症で亡くなったのがほとんどです。この事故を材料的な観点から見てみたいと思います。

 

  よく言われていることですが、衝突によってできた亀裂そのものはあまり大きくなかったです。穴の大きさとしては1.1から1.2平方メートル程度のようです。この時に船体が、曲がったり、凹んだりして塑性変形を起こしてから破壊(延性破壊)せずに、衝突によって船体(鉄板)が一気に破壊する脆性破壊が起きていたと思われます。しかし、それよりも大きな問題は船板の接合です。船体の板の継ぎ目にはリベットという鉄製の部品でつなぎ合わされていたのですが、このリベットが破損して船体のすき間から海水が入り込んで沈没したという説が有力です。リベット破損の模式図を図1に示します。

 この時に問題となるのが鉄の低温脆性という現象です。鉄は温度が低下すると延性破壊から脆性破壊に変化します。この延性破壊と脆性破壊の切り替わる温度を「延性脆性繊維温度」と言います。延性脆性繊維温度のグラフを図2に示します。延性脆性繊維温度は明確に決められた温度ではありません。硫黄やリンなどの不純物介在物が多いほど、金属組織の結晶粒径が大きいほど延性脆性繊維温度が上昇し、比較的暖かい温度でも脆性破壊を起こすようになります。

 

 そして、破損したリベットですが、現在の鉄鋼よりも硫黄などの不純物元素が多く、結晶粒径も大きかったです。そのため、当時の海水の温度(-2℃程度)で低温脆性を起こしていたと考えられます。現在では鉄鋼の製錬技術、連続鋳造や熱処理・圧延技術の発達によって-2℃程度で低温脆性を起こすことはほとんどありません。

 

 まとめると、タイタニック号航海時は海水が低く、船体やリベットにとっては低温環境でした。そのため、低温脆性を起こしやすい状況でした。そのような時に氷山に衝突して船体が破損して海水が流れ込み沈没したと思われます。ちなみに低温脆性という現象はこの当時認識されていませんでした。低温で鋼が脆くなることを知らなかったのです。低温脆性が認識されたのは、この約30年後のリバティ船沈没の頃です。